L'odoriter 料理人の新しいプロダクト。田村浩二の挑戦。

シェフとして、人として。今感じていることを少しずつ綴っていければと思っています。

料理人としてどう生きていくのか?

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10月29日、東京駅近くのパソナTRAVEL HUB MIXで、新会社.sience(ドットサイエンス)の設立記念イベントと新しいプロダクト、香りを食べるアイスクリーム『FRAGLACE』の発表会を行いました。

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初めてのイベントという事で不備も多々あったと思いますが、パソナの皆様のお陰で何とか無事に会を収めることが出来たと思います。

 

台風で雨足が強い中40名近くの方たちにお集まりいただき、日頃お世話になっている生産者の方とその食材を使った料理を楽しんで頂きながら、僕らの会社の活動や今後の展望、そして生産者の声を聞いていただけたのではないかなと。

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そもそも僕たちの会社は何をしていく会社なのか?

 

元ヤフーでマーケティング担当の小澤亮と、研究者でエビデンス担当(プロダクトの価値の見える化)の木村龍典、そして生産者の価値あるプロダクトを調理という技術でクリエイトする僕の3人で立ち上げた、食材のブランディングと、その価値とストーリーを多くの人に伝えていくことで、日本の大切な資源や伝統的な技術を再認識してもらい、100年先まで守っていく。そんな想いの会社です。

 

まだ立ち上げたばかりで、今後様々な可能性のある会社だと思っています。

 

その取り組みの第一弾として、無農薬無肥料で作る食用のバラを使ったアイスクリームを開発しました。まだ食材としての認知度の低いバラですが、その価値は他に類を見ないほどです。香りを自身のテーマに掲げる僕は、このバラとの出会いに運命的なものを感じました。現状添えるという選択肢が多いですが、そうではなく、きちんと食材の事を理解し、そのポテンシャルを100%引き出す使い方を多くの人に知って頂きたい。バラの美味しさを知ることで、生産者の仕事の価値を伝えたい。

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こうゆうシェフとしてのレストラン以外の活動をすると、『シェフなのに』というネガティブな声が少なからず聞こえてきます。一つの道を究め続けるのが美学の日本では、それはある種当たり前なのでしょう。僕自身もその考え方は嫌いではありません。しかし、時代が変わり、働き方が変わり、人の考え方も変わる中で、今までと同じ働き方をすることに少し息苦しさも感じています。

 

僕はとても無駄が嫌いです。料理にしても必要のない飾りの為だけのアイテムを乗せたくありません。自分の能力に関しても無駄にしたくない。レストランでの料理は大好きですが、それは僕の能力の一部でしかありません。美味しいカレーを作ることも出来るし、ハーブやフルーツでアロマティーを作ることもできます。人に何かを伝える時に、言葉でも、文章でも明確に表せます。全部が自分の能力で個性です。

 

シェフをしているからレストランで働くだけなんて、自分の能力を生かす機会損失だと感じます。時代が進み、コミュニケーションの仕方と速度が変わったからこそ、このように感じるようになったのです。

 

そして、デジタルネイティブと呼ばれる次の世代ならなおさらだと。そんな彼らの働き方の方向性を広げていくのも、僕たち若手シェフの役割だと思っています。カンテサンスの岸田シェフがレストランの仕組みを変えた様に、傅の長谷川シェフが日本料理の可能性を広げた様に。30代前半の今だからこそ、新しい取り組みを、賛否両論ありながらも突き進むべきだと。

 

まだ何も結果は出せていません。

 

でも、だからこそ、今の自分を信じ、未来の自分に期待を込めて、こうして少しでも世の中に投げかけていく。自分から発信することで、多くの人に届き、巻き込めるように。

 

年齢や経験は関係ない、やるかやらないか。出来るかどうか悩むくらいなら、先ず一歩踏み出そう。

 

 

 

 

 

 

自己紹介26。技術は言葉の壁を超える。

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初めて作った賄は何だっただろうか?

 

レストランで働き始めてから、幾度となく賄を作ってきた。最初の頃はまずいと言われ、目の前で捨てられ、コンビニ弁当を食べられた日もあった。

 

実家にいる時は料理なんて作ったことがなかった。味噌汁さえも作った記憶はない。

それでもなぜか僕は料理人になった。母の料理のお陰だ。

 

母の料理のお陰で、美味しいものが分かる舌は育っている。

 

 

 

ミラズールで働き始めたものの、僕はいまいち馴染めずにいた。言葉の壁もある。

そんな矢先、賄を作る機会が回ってきた。30名を超えるスタッフの賄を作る。

毎日激しく忙しい調理場で、賄用に火口もなかなか使えない。自分の仕込みもある中でバタバタと働いていたが、半ば強引に場所を取り仕込みを始めた。

 

賄は皆、好きなものを作るらしいが、自国の料理を作ることが多いみたいだ。

勿論僕は和食を作った。(日本人が僕しかいなかったので、作れと皆から言われた)

死ぬほど忙しい中、僕が最初に賄いに作ったのはカツ丼だ。30人分のカツを上げるだけでも一苦労なのに、なぜカツ丼を選んだのか。(のちにシェフとしてカツ丼を作るとは思ってもいない)

 

それでも何とかやり切り、皆と一緒に賄のテラスへ。

 

料理人として初めて作った賄よりも緊張した。それでも当時よりは間違いなく旨いものが作れている。さあ食ってくれ!そんな気分だった。

 

いつものように一人で食べていると(賄を食べる時間も勿体ないくらい時間に追われていたのと、会話が続かない引け目で)何人かのスタッフが近づいてきた。

 

『これはなんだ!どうやって作るんだ!!うまいじゃないか!!!』と興奮気味に話しかけてきた。僕を顎で使っている18歳のマリアーノも寄ってきて、急にタムサンと敬語になった。不慣れな英語だが、精一杯カツ丼の作り方を教え、くだらない会話も出来た。それからは賄を作るたびに評価が上がり、仕事の仕方も聞いてくるようになった。

 

賄が僕の技術を証明してくれたのだ。そして、得体のしれない日本人から、技術のある日本人へと周りの目が変わった。仕事に対して意見をしても、ちゃんと聞いてもらえる。新しいメニューの試作を任されたり、気が付けばセクションを任されるほどに。

 

正直入って一週間は、日本に帰りたくなるほどきつかった。それでも何とか立ち直り、セクションを任され、お店に貢献することが出来たと思う。

 

僕の培ってきた技術が世界に通用した瞬間だった。(賄だけでなく、様々な場面で)

 

 

新卒の頃、毎日言われ続けた『世界に通用する技術を身につけろ』の言葉の意味を体感し、当時ガムシャラに働いて身に着けた技術と、師匠の下村シェフに改めて感謝した。

 

自信が付くと自己主張も出来るようになり、働きやすい環境作りが出来始める。

 

本当の戦いはここからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本人なら。

バーミキュラライスポットを知っているだろうか?

 

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それは、愛知ドビー株式会社の作る『世界一、素材本来の味を引き出す鍋』だ。

 

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元々は船舶やクレーン車に使われる精密部品の製造をしている鋳造メーカーだったがが、鋳物の特性が調理に向いているというところから、鍋作りを始められたそう。

 

始めてバーミキュラを知ったのは、宮崎の大先輩の家で朝食をご馳走になった時で、ご飯がこんなにも美味しくなるのかと驚いた。

 

その後も、凄い凄いと話には聞いていたが、実際に触れる機会は殆どなく、『少し高い炊飯器』という程度の浅はかな認識だったのを恥ずかしく思う。

 

11月6日発売のbuonoの企画でバーミキュラのレシピを作る事になった。そこで初めてバーミキュラと向き合い、その機能性の高さは勿論だが、誰でも使いやすく設計されているそのシステムに感動した。

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先ずは、鍋自体に施されているTRIPLE THERMO TECHNOLOGY。

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1つ目は、鍋底をリブ状ににすることで食材の接地面積を最小限にし、過剰な熱の伝達を抑えます。

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2つ目は、3層にコーティングされたホーローが強い遠赤外線を発生し、食材の組織を破壊することなく内側から加熱します。

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3つ目は、テーパーエアタイト構造。高い密閉性で蒸気をしっかりと閉じ込め、鍋の中で対流を作り食材に外側からも熱を入れるので、美味しく仕上がる。

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この3つの加熱により、食材本来の旨味を引き出します。

 

そしてこの鍋の能力を最大限に引き出すのがRice PotのWRAP UP HEAT TECHNOLOGYだ。

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かまどの炎のように、鍋を包み込むように加熱する。そしてヒートセンサーが一度単位の正確な温度管理をしてくれます。

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直火では調節のしにくい、弱火や極弱火までしっかりとコントロール。ご飯を美味しく炊き上げるのは勿論の事、長時間の温度管理や低温調理、パンの発酵まで幅広くこなします。

 

僕のようなプロの料理人から一般家庭の主婦まで、どんな人にも使いやすく美味しく調理できる最高のアイテムだ。

 

一家に一台の必需品になる事間違いないだろう。

 

家庭の小さなキッチンで何時間も場所を取られるのは死活問題だが、バーミキュラはコンセントがあればどこでも使えるので、場所を選ばない。これはかなり重要なポイントだと思う。レストランでも火口はいつも場所がない。なので、場所を選ばないというのはとても大切だ。

 

ここまで色々と書こうと思ったのも、本当にバーミキュラが素晴らしいからだ!

 

是非多くの方にこの感動体験をしてもらいたい。

 

昨日食事に来てくださった土方社長、副社長、そして取材からお世話になった折橋さんと。

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http://buono-web.jp/magazine/detail/5621/

 

 

自己紹介25。孤独な戦い、言葉の壁。

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初めて海外で働くレストランが世界12位。(現4位)

 

各セクションにつく担当者の仕事のレベルの高さに驚いた。外国の料理人は日本人と比べると仕事が雑な人が多い印象だったが、ここのスタッフは日本人より細かく清潔な仕事をしていた。

 

レストランミラズール。

 

着いたその日に案内された調理場は、今まで感じたことのない熱気と各国の言葉が激しく飛び交う、まさに戦場だった。

 

シェフが発するオーダーに、全員が怒号の様な返事をする。一度料理がかかると、盛り付けをするシェフの前に次々と淀みなく食材が渡され、一皿へと仕上がっていく。

 

目の前で見ているだけで圧倒されてしまう様な、そんな見えない力がこの調理場には渦巻いていた。

 

初日だからと言う理由で、軽い仕込みと見学で終わった。

 

明日からこの調理場で戦う。興奮と不安がぶつかり合うなんとも言えない気持ち。

 

寮へ案内すると言われ、車へ向かう。店から車で15分。山を登った先にスタッフの住む小さな家があった。運転してくれたスタッフは、仕事がまだ残っていると店へ引き返した。残された僕は訳も分からぬままシャワーを浴びて、長い1日を終えた。

 

 

 

8月のマントンは、多くの観光客で賑わっている。シーズン真っ只中のミラズールは、昼夜合わせて140名近いゲストが毎日の様に訪れていた。そんな中、途中から入った僕は前菜のポジションへ入れられ、18歳の若者と仕事をしていた。

 

先に働いていた彼マリアーノは、後から来た僕に仕事を奪われまいと何かにつけて喧嘩腰で話をする。後から分かる話なのだが、どうやら彼は僕の事を22歳だと思っていたそうた。(29をヴァンヌフと発音するのだが、22のヴァンドゥーと聞き間違えたらしい。僕の見た目が外国人と比べ幼いのもそれを助長していた。)

 

調理場にはフランス人がいなかった。イタリア人、スペイン人、アルゼンチン人、アメリカ人、そして日本人は僕1人。

 

1年かけて学んだフランス語は日の目を見ず、中学時代の英語を頭の片隅から引っ張り出し、必死にコミニケーションをとっていた。会話する人の出身地によっては訛りが激しく、英語を話せないスタッフもいた。20人以上いるスタッフの名前を覚えるのも一苦労。何気ない会話をする余裕もない程の忙しさ。賄いも1人でかき込む様に食べ、直ぐに準備に取り掛からないと間に合わなかった。

 

オーダーに耳が慣れず、18歳のマリアーノにはナメられ、今までの自分の仕事が否定されている様なそんな毎日だった。

 

それでも1週間が経ちシェフと話をすると、研修生ではなく社員として雇ってもらえる事になった。自分の中で結果は出せていなかったが、取り敢えずは自分の居場所を確保する事が出来たのだ。

 

次の週から賄いを作る様にと言われた。1週間皆で交代で作っていると。

 

良くある話だが、この賄いをキッカケに僕の仕事は好転する。言葉よりも何よりも、美味しいものを作る技術が僕の事を救ってくれた。

 

『世界に通用する技術を身に付けろ』

 

いつか師匠に言われた言葉の意味を、僕はこの時やっと理解した。

自分らしく生きるとは。

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緩やかに暮らす、自分らしく。

 

誰もがそんな生活を求めながら、日々の喧騒の中忙しなく過ごしている。

様々な技術が発達し、10年前よりも生活の速度は速くなった。しかし、生活にゆとりが出来たかというとそんなことはないと思う。便利になった分だけ仕事は増え、お金も必要になっている。

 

料理人という仕事をしていると、拘束時間が長く休みも少ないのが一般的だ。それが当たり前だと思って生きてきた。人よりも先へ、もっと先へ。時間の許す限り働き、勉強し、走り続けている。しかし、ふと立ち止まった時、今の自分には何があるのだろう、と考えてしまう。料理の事だけをひたすら考えてきたから今がある。それは間違いない。では、人としてはどうなのだろうか?僕もいつか結婚し、子供が出来るだろう(切に願う)。その時に今と同じ働き方が出来るのだろうか?

 

世の中が便利になった分だけ、見えなくなったものも多い。10年前の当たり前はどんどんなくなっている。便利さを求めるあまり、効率を求めるあまり、農薬や化学肥料を使う。体に悪いと分かっていてもそれをやめることが出来なくなる。その結果、見た目ばかりの野菜がスーパーに並び、それが当たり前になっていく。

 

人間を含めすべての生き物は食べたもので出来ている。野菜や魚、肉は与える餌で味も健康状態も変わる。人もだ。自分の健康は食べているもので決まるのだ。それほど食事の時間は大切なもの。

 

 

料理人として、自分の経験してきたことや学んできたものの価値を高めるために、色々な料理を作っている。特別な料理を作ることに意義も感じている。しかし、自分の原体験としての料理は母の料理だ。当たり前の日常が特別なのかもしれない。

 

幸せの定義は様々だが、緩やかに自分らしく暮らしたい。そんな時間の使い方を沢山の人に共有したい。料理を『食べる』だけではなく、『過ごす時間』へ。誰とどんな風に過ごすのか。その時間の潤滑油に料理があればいい。

 

生き方とは、暮らしとは、自分らしくとは何なのか。大切な人と、自分と向き合う緩やかな時間を作る場所。そこで働く人も過ごす人も自分を見つめなおせるような。

 

 

 

 

無理をせず、ありのままを。そんな料理と時間を創るお店。

 

YuruKurasiKu(ユルクラシク)

 

穏やかに(緩く)暮らす、自分らしく。

 

そこで過ごす時間が、時をこえて愛されるように。

 

時代が変わっても、変わらぬ良さを。

 

そんなお店をいつかきっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介24。いざ南仏へ。調理場という戦場。

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パリから約7時間。

 

TGVに揺られながら、初めての南仏マントンへ到着した。夏の日差しに照らされながら、ミラズールのスタッフが着くのを待つ。

 

昨日の朝までは、自分が南仏に来るとは思わなかった。

 

 

 

昨日、紹介してもらった神崎千帆さんの働くLa Ferme Saint-Simonへと足を運んだ。会ったことがないフランスへ来たばかりの料理人に、とても素晴らしいサービスをして頂き、僕の話にも親身になって聞いてくれた。ミラズールでは7年近く働きスーシェフまで勤め上げ、シェフのマウロとの信頼関係も勿論深い。

 

そんな彼女が僕の話を聞いてすぐにマウロへと電話をしてくれた。話をしてからそこまで時間は経っていなかったのにもかかわらずだ。電話を終えた彼女は僕にこう言った。

 

『明日からお店に行って!』

 

『マウロが明後日から海外に出てしまうらしいの、だから明日行って少しでも話した方がいいから。』

 

 

とても嬉しい事なのだが、この時は正直頭が回らなった。いきなり明日から?

 

『あとは、一週間働いてみて、仕事が認められればお給料も出るわ!頑張って!』

 

会ったばかりのどこの馬の骨とも分からない人にここまで出来るだろうか?信頼関係など皆無。出会った時のインスピレーションだけだ。

 

『とても嬉しいしありがたいのですが、どうしてここまでしてくれるんですか?まだあったばかりなのに』

 

ふと聞いてしまった。

 

『私はフランスに来た当初何も仕事が出来なかった。それでも沢山の人のお陰で今もこうしてフランスで働けている。誰かが困っていたら助けになろうと決めていたし、きっとあなたなら大丈夫でしょ?(笑)なんとなくそんな気がするの、雰囲気というか空気感というか。』

 

日本でもそうだったが、フランスでも人とのご縁で進むべき道が見つかるのかと、とても不思議に思いつつもこうやって育ててくれた両親に心から感謝した。

 

話し終わった後、僕はすぐにチケットを買いに駅に向かった。券売機で買おうとするも、クレジットカードが反応しない。カードの磁気がすれていて読み取れなかったのだ。同様の理由でフランスのATMのようなものでも現金が出せなかった。(海外に行く人はカードを確認してから行ってください)

 

すぐに千帆さんに連絡し、その旨を伝えた。ここまでしてもらったのに最悪だ。

チケット売り場は閉まるのが早く、少しでも時間を過ぎたら対応してくれない。(他の機関やスーパーでも割と冷たい)どうしたものかと思っていたら千帆さんが、

 

『もう一度お店に来れる?お店の近くのチケット売り場へ行きましょう!』

 

お店の仕込みもある中で、ここまでしてくれるなんて。すぐにお店に向かい合流した。

 

歩いて近くのお店は潰れてなくなっていた。

 

次に向かった場所は、もう閉店だと断られた。

 

ここまでくるともう縁がなかったのだなと思ってしまったが、千帆さんが『今このタイミングでお店に空きがあっただけでもすごいラッキーなの。だから絶対に行くべき。何としてもチケットは取りましょう。』と。

 

何から何までお世話になってしまった。最終的に何とかチケットを買うことが出来、代金まで立て替えてもらった。ここまでしてもらったチャンスを逃すわけにはいかない。

 

次の日、初めて乗るTGVにオロオロしながらも、なんとかマントンまでたどり着き僕はスタッフを待っている。

 

一台の車が止まり、男女が下りてくる。

 

陽気そうで人懐っこい顔をしたカラーラとエミリーセだ。

 

イタリア人とスペイン人と共に車に乗りお店へ。最初からフランス語が通じず英語での会話になったが、やっと海外に働きに来た実感が沸いた。

 

夕焼けに暮れるマントンの海を眺めながら、期待と不安の入り混じる何とも言えないこの気持ちを忘れることはないだろう。

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ミラズールでの戦いが始まる。

 

 

~美味しさをデザインする~嗅覚と味覚のタイムラグを意識して、美味しさのゾーンを広げる。

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前回は、料理を食べる前の段階の話をしました。

 

今回は、料理を食べる口内で何が起きているのかと、どの様に料理を構築すれば美味しさをデザインできるのかを書きたいと思う。

 

まず大切なのは、食べ物を口に含んだ時に人が何をどの様に感じるのか。

 

初めに口中香(レトロネイザル)を感じる。口に含んだものの香りが鼻腔に抜けて嗅覚を刺激する。その後舌に触れたものの味を味覚がキャッチするのだ。

 

この二つの感覚は数秒の中で感じるものだが、明らかに嗅覚が先に反応する。

 

それは嗅覚が脳と直接つながる機関だからである。嗅覚と味覚にはタイムラグが存在するのだ。このタイムラグをうまく使うことで、味を感じる時間を長くすることが出来る。

 

レトロネイザル、味覚ときた後は、触覚だ。

 

口の中で感じる食べ物の硬さによって美味しさを感じることが出来、噛むという行為によって味わいと香りの変化をつけることが出来る。

 

食感は味わいを左右するとても重要な要素で、その些細な変化を人は敏感に察知する。

これは元々本能で、自分の体を異物から守るために発達しているのだが、今の時代には味を感じるために働く機会の方が多いのではないだろうか。食感が悪いものがあると敏感に感じ、その些細なノイズが全体の味わいに大きく影響する。逆に食感の良さを生かすことで、口の中でリズムを作り味わいを軽やかにし、間を作ることも出来る。

 

 

そして咀嚼の次は、飲み込むときの喉越しだ。この部分は飲み物に対して使われることが多いが、料理にも多大に影響してくると思っている。火の入りすぎた硬い肉は喉越しが悪くなる。逆に綺麗な火入れの肉はその滑らかさが喉越しにも伝わる。

 

そして最後がもう一度口中香だ。食べ物を飲み込んだ後に人は鼻から息を抜く。

この時に食べたものの香りがもう一度することで、余韻を感じるのだ。

 

前回話した、視覚とオルソネイザルから始まり、最後の口中香までの時間をどうアレンジするか。

 

同じ味わいが続くと人は飽きてしまう。複雑すぎると何を食べてるかが分かりにくくなる。何を食べてるかが明確に分かりながら、数秒の中に変化をつける。ただ食材を並べるのではなく、その食材が、『そこ』にある必要性を見出し、ただ食べる以上の価値を付け、人の想像を超える。そんな美味しさをデザインしたい。

 

昔から続く食材の組み合わせ、土地や環境による組み合わせ、相性の良い香りの組み合わせ。食材ごとに調理法に合わせた組み合わせもあるだろう。自分の求める味わいに対してどうストーリーを作るのか。 

 

 

 五味、旨味、風味、食感、温度。それに加えて人が美味しいと感じる要素を、どこまで組み込めるか。伝わりやすくするためにはどうすればいいのか。

 

 

一皿の中のメインの食材に対して香りの方向性を決め、その香りにリンクする食材を様々な形状で合わせる。オイル、ピューレ、ソース、食感、メインの食材、パウダー、泡、ハーブ。それぞれ別々の食材でも、香りの軸があればすべてが繋がる。そして口の中で感じるタイミングをずらすことで(濃度や温度、形状で変える)味わいを長く感じさせることが出来る。お皿の中でどのように盛り付けるかでも味の感じ方は変わるので、細部まで考え抜く。味や香りを重ねるフランス料理は、特にバランスを上手くとる必要があると思う。

 

数分で消えてしまう一皿の料理にどこまで想いを込めれるか。そしてコースとして10数皿をどのように紡ぐのか。

 

料理には、作った人が映し出される。その人の考えや経験,生き方全てが。

 

ただ美味しいだけではない、熱量が伝わる料理を作っていきたい。