自己紹介15。ケジメと再出発。
イタリア料理からフランス料理の世界へ戻る。
その為に1つ必ずしなければならない事があった。
自分の未熟さ故に、飛び出すように辞めてしまった『Edition Koji Shimomura』の下村シェフへの謝罪だ。
お店を辞めてから2年半がたっていた。
当時分からなかった事やシェフの想いが少しだけ分かるようになった気がするのは、自分の経験値が少し増えたからだろう。
自分のとった行動がどれだけの人に迷惑をかけたのか。それによって下村シェフはどの様な気持ちになったのか。考えれば考えるほど申し訳のない気持ちでいっぱいになった。
しかし1人で謝りに行くほどの勇気は無く、キッカケが無ければ未だに顔を合わせる事は出来なかったと思う。
現在スブリムでオーナーをしている山田さんから連絡を貰わなければ。
『下村シェフの所に食事に行くんだけどお前も行かない?』
何故僕を誘うのか正直理解が出来なかった。当時一緒に働いていた山田さんなら僕の状況が分かっていたはずなのに。
『正直下村シェフに顔向け出来ません。僕は行けません。』
しかし山田さんは、『もう3年近くも前の事だろ?良い頃合いだよ。フランス料理の世界に戻るなら、ケジメはつけないといけない。それに下村シェフだってもう気にしてないだろ。』
気にしてないわけないだろと心の中で想いながらも、キッカケが無ければ絶対に行けなかったので、正直救われた気持ちだった。
研修にも行かせて頂いた菅又シェフ(現在リョウラオーナー)のお菓子を用意し、お店へ向かう。
様々な気持ちが渦巻く。
営業前に挨拶をとお願いしたが、忙しいからという理由で断られ、なんとも言えない気持ちで食事をした事は一生忘れないだろう。
そしてデザートまで食べた時、下村シェフはテーブルへといらして下さった。
いの一番に、『下村シェフ、当時は本当にすみませんでした。』と伝えると、思いもしない言葉が返って来た。
『ん?何かあったか?昔の事は忘れたよ。今も料理を続けてるんだろ?頑張ってるらしいじゃないか』
その言葉に思わず泣きそうになった。
自分が同じ状況になった時、その言葉が言えるだろうか?20歳近く年の離れた若造に啖呵を切られたというのに。
『またフランス料理の世界へ戻ります。L'ASというお店です。』
その事を伝えるだけで精一杯だった。
そしてお土産を渡した後は何を話したのか覚えていない。
ただ1つ言える事は、今まで胸に引っかかっていた『何か』は消えて無くなっていた。
『Edition Koji Shimomura』出身だと胸を張って言える様更に努力しようと心に決め、新たなスタートを切る。
フランスへ行く前の最後のお店。
『レストランL'AS』
新しい挑戦をするお店での再出発。