L'odoriter 料理人の新しいプロダクト。田村浩二の挑戦。

シェフとして、人として。今感じていることを少しずつ綴っていければと思っています。

自己紹介16。ターニングポイント。

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作業を始めて七時間、気が遠くなるほどの仕込みも終わりが見えてくる。

 

朝から一つの仕込みだけでこれだけの時間をかけたのは初めてだった。

 

仕事は速い自信があった。ただ圧倒的に『量』が多いのだ。

 

骨董通り(現南青山)にあるレストランL'AS。

オーナーシェフは兼子大輔さん。

三田コートドールやパリのアランサンドランスで修行をされ、麻布十番のカラペティバトゥバでシェフをした後L'ASをオープンさせました。

 f:id:koji-tamura0929:20170831235753j:image(写真は2012年時のもの)

オープンしてまだ二か月だが、瞬く間に予約の取れないレストランになっていた

 

 

このお店には色々な所に話題性があり、5000円という驚きの価格でのお任せコース、二週間で変わるメニュー内容(2012年時)、引き出しから取り出すカトラリー、料理に合わせたワインペアリング。

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そして何より、意外性がありながらも美味しく楽しい料理が人々の心を惹きつけていた。

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キッチンスタッフは兼子シェフを入れて4人、サービスは2人。この人数で1日2回転、約40名のゲストと闘う。

 

仕込みがとても多く、朝から晩まで息つく暇なく働いた。初めてレストランで働いた時のような過酷さは2度と経験しないと思っていたが、考えが甘かった。この店は何かが違う。ただの人気店繁盛店ではない。目に見えない力を宿している。そんなことを感じる日々だった。

 

全ての料理を出し、ゲストを見送り、片づけが終わるのが日をまたぐ頃。そこからは次の日の仕込みを始め、終わるのが夜中になる事もしばしばあったが、僕は不思議と楽しく感じた。日々の仕事の充実による生きている実感。自分の存在意義が明確にL'ASにはあった。そして一番大きかったのは、ある程度の仕事は誰にも負けないと思っていた矢先、兼子シェフの仕事のスピードとクオリティーを目の当たりにしたこと。

 

「こんなに仕事が早く、きれいな人がいるのか」と心を折られた。

 

そして、明らかにレベルの違うその仕事力に少しでも近づこうと、更に自分を磨く。人として、料理人として尊敬できる人と毎日働けることに充実感を得ていたことで僕はやりがいと生きがいを見出していた。

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今の時代、長く働く事が良いとは言えないが、長く働かないと見えない世界がある事も事実だ。人と同じ時間しか働かないのでは、人の先には行けない。

 

そして、人生には脇目も振らず1つのことに全ての時間を注ぐ瞬間があっても良いと僕は思う。

 

ある種の狂気の中でしか生まれない何かがある事を僕は知っている。