L'odoriter 料理人の新しいプロダクト。田村浩二の挑戦。

シェフとして、人として。今感じていることを少しずつ綴っていければと思っています。

~美味しさをデザインする~嗅覚と味覚のタイムラグを意識して、美味しさのゾーンを広げる。

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前回は、料理を食べる前の段階の話をしました。

 

今回は、料理を食べる口内で何が起きているのかと、どの様に料理を構築すれば美味しさをデザインできるのかを書きたいと思う。

 

まず大切なのは、食べ物を口に含んだ時に人が何をどの様に感じるのか。

 

初めに口中香(レトロネイザル)を感じる。口に含んだものの香りが鼻腔に抜けて嗅覚を刺激する。その後舌に触れたものの味を味覚がキャッチするのだ。

 

この二つの感覚は数秒の中で感じるものだが、明らかに嗅覚が先に反応する。

 

それは嗅覚が脳と直接つながる機関だからである。嗅覚と味覚にはタイムラグが存在するのだ。このタイムラグをうまく使うことで、味を感じる時間を長くすることが出来る。

 

レトロネイザル、味覚ときた後は、触覚だ。

 

口の中で感じる食べ物の硬さによって美味しさを感じることが出来、噛むという行為によって味わいと香りの変化をつけることが出来る。

 

食感は味わいを左右するとても重要な要素で、その些細な変化を人は敏感に察知する。

これは元々本能で、自分の体を異物から守るために発達しているのだが、今の時代には味を感じるために働く機会の方が多いのではないだろうか。食感が悪いものがあると敏感に感じ、その些細なノイズが全体の味わいに大きく影響する。逆に食感の良さを生かすことで、口の中でリズムを作り味わいを軽やかにし、間を作ることも出来る。

 

 

そして咀嚼の次は、飲み込むときの喉越しだ。この部分は飲み物に対して使われることが多いが、料理にも多大に影響してくると思っている。火の入りすぎた硬い肉は喉越しが悪くなる。逆に綺麗な火入れの肉はその滑らかさが喉越しにも伝わる。

 

そして最後がもう一度口中香だ。食べ物を飲み込んだ後に人は鼻から息を抜く。

この時に食べたものの香りがもう一度することで、余韻を感じるのだ。

 

前回話した、視覚とオルソネイザルから始まり、最後の口中香までの時間をどうアレンジするか。

 

同じ味わいが続くと人は飽きてしまう。複雑すぎると何を食べてるかが分かりにくくなる。何を食べてるかが明確に分かりながら、数秒の中に変化をつける。ただ食材を並べるのではなく、その食材が、『そこ』にある必要性を見出し、ただ食べる以上の価値を付け、人の想像を超える。そんな美味しさをデザインしたい。

 

昔から続く食材の組み合わせ、土地や環境による組み合わせ、相性の良い香りの組み合わせ。食材ごとに調理法に合わせた組み合わせもあるだろう。自分の求める味わいに対してどうストーリーを作るのか。 

 

 

 五味、旨味、風味、食感、温度。それに加えて人が美味しいと感じる要素を、どこまで組み込めるか。伝わりやすくするためにはどうすればいいのか。

 

 

一皿の中のメインの食材に対して香りの方向性を決め、その香りにリンクする食材を様々な形状で合わせる。オイル、ピューレ、ソース、食感、メインの食材、パウダー、泡、ハーブ。それぞれ別々の食材でも、香りの軸があればすべてが繋がる。そして口の中で感じるタイミングをずらすことで(濃度や温度、形状で変える)味わいを長く感じさせることが出来る。お皿の中でどのように盛り付けるかでも味の感じ方は変わるので、細部まで考え抜く。味や香りを重ねるフランス料理は、特にバランスを上手くとる必要があると思う。

 

数分で消えてしまう一皿の料理にどこまで想いを込めれるか。そしてコースとして10数皿をどのように紡ぐのか。

 

料理には、作った人が映し出される。その人の考えや経験,生き方全てが。

 

ただ美味しいだけではない、熱量が伝わる料理を作っていきたい。