自己紹介14。再びフランス料理の世界へ。
麻布十番にカラペティバトゥバというフレンチがある。
家から近かった事と、料理が抜群に美味しかった事から、足繁く通っていた。
当時このお店で働きたいと思っていた事もあり、特別な思い入れのあるお店だ。
ある日当時のシェフ兼子大輔さんが独立したと話を聞き、直ぐにお店に足を運んだ。
表参道骨董通り『L'AS』
今では珍しく無いが、当時衝撃的だった5000円のお任せコース。テーブルには引き出しがあり、カトラリーがセットされている。そしてコースに合わせてワインのペアリング。
あらゆる無駄を排除する事によって実現する5000円というバリュー。
肩肘張らない空間で、純粋に料理を楽しめる。
そして料理は本格派のフランス料理。
行ったその日にこの店は確実に流行ると確信した。
一人で食事に行ったので、帰り際には兼子シェフともお話しする事が出来た。
やはりフランス料理の世界に戻りたい。
2年半イタリア料理と共に時間を過ごし、改めてフランス料理を、フランスへ行きたいという想いが強くなった。
しかし、3年間は同じ店で働きたいという想いもあり、今後をどうするか悩んでいた。
そんな矢先一本の電話が掛かってくる。
L'ASの兼子シェフからだ。
食事に行った時の予約の電話番号に連絡を下さり、お話を聞く機会を頂くことに。
それは食事から2ヶ月後の事だった。
現状や、今後フランスへ行きたい事、将来なりたいビジョンや料理感など、短い時間の中で色々と話を聞いて頂いた事をよく覚えている。
しかし今の自分の立場では直ぐにお店を辞める方は出来ない。行きたい気持ちを抑えながら、兼子シェフにはそう伝えた。
自分で伝えたとは言え、晴れない気持ちはごまかせなかった。
その一週間後にもう一度電話が。
2度も連絡を頂けた事、フランス料理へ戻りたかった事、フランスへ行きたい事。
色んな想いが頭の中を交錯し、素直にL'ASで働きたいと思い、その事を後藤シェフに伝えた。
『ちょうどイタリアから帰ってくる料理人がいたけれど、田村くんがいるからと断ろうと思っていた。でも田村くんが新しいお店へ行きたいなら応援するし、人の事も心配はない。』
本当に多くの事を学ばせて頂き、次のお店の事まで考えて下さった。後藤シェフからは料理以上に大切な物を教えて頂きました。
2年半お世話になったお店を離れ、再びフランス料理の道へ。
しかし、その前にやらなければならない事が1つだけ残っていた。
『L'AS』で働いた事で、僕の料理人としての考え方は180度変わった。人との、お店との出会いで、僕の人生は更に変化を増していく。